2012年 6月 15日
第20回 日本意識障害学会 大会長
弘前大学 医学部 脳神経外科 教授
大熊 洋揮
第20回日本意識障害学会を2011年9月2日(金)、3日(土)に開催しました。
それを遡ること半年前の3月11日、東日本大震災による被害を多数の方々が受けました。その影響が癒えぬ時期でしたので、開催の如何に関する思案もありました。大勢の方のご協力、ご支援により開催に漕ぎ着けることができましたことに改めて御礼申し上げます。
今回のテーマは「治療におけるブレークスルー、看護におけるスタンダード」と致しました。治療に関しては膠着した状態が続いていることから、現状を打破する可能性のある試みに焦点を当てました。看護・介護面においても、患者さんの増加に伴い均等なサービスを提供できているかという問題が生じていることを背景に、有効な方法を高いレベルにおいて標準化させることを目標としました。そして、これらの主題に沿い、シンポジウム、特別・教育講演を構成しました。
さらに東日本大震災に際し、意識障害患者・施設も多大なる影響を受けました。今後の災害に備えることが意識障害医療の重要な課題の一つであることが判明しましたために、「被災時の対応」と題するシンポジウムも組みました。
一般応募演題83題、指定講演6題、特別講演3題、教育講演1題、基調講演8題、ランチョンセミナー講演3題の計104の発表がありました。
以下、それぞれの項目別に概要を報告します。
治療の基本となる意識障害の機序の解明に関して、FDG-PETが有用な方法になることが示された。また、ランチョンセミナー(新潟大学・藤井幸彦教授)では高磁場MRIによる意識障害機序の解明における可能性が紹介された。
脳深部・脊髄・正中神経刺激療法に関して、有効性の機序や予知の報告がなされ、教育講演(日本大学・山本隆充教授)では、今後の進展としてOn-Demand型装置の有用性や近赤外分光法のモニタリング併用下の治療などが紹介された。
神経再生に関しては各施設における神経幹細胞・ES細胞を用いた取り組みが報告された。
現状では、種々の病態に対する細胞移植の有効性が報告される一方で、癌化などの安全性、移植ルート、治療効果評価法など解決すべき様々な問題点が指摘された。引き続き行われた特別講演(東北大学・出澤真理教授)で紹介されたヒト成人生体由来の多能性幹細胞(Muse細胞)は、癌化などの安全性の問題をクリア出来ることから、将来、こうした細胞の利用により神経再生が可能となり得ることが示唆された。
摂食・嚥下・口腔内ケア、褥瘡予防・スキンケア、転倒転落予防、日常生活自立支援について、各々基調講演、シンポジウムが組まれ、各施設から様々な取り組みが発表された。
活発な議論が行われ、標準化に向けてある一定の方向性が示された。一方、医療サイドが安全性や経験則から見落としているケアを、家族が実践し一定の効果をあげていることが家族の会からの発表で示された。この点を組み入れていくことも標準化の一助になると考えられた。
また、遷延性意識障害患者の生活障害レベルの改善・回復を予測(予後診断)しうる看護プログラムについての基調講演(静岡県立大学・紙屋克子教授)もなされた。この看護プログラムはエビデンスの構築などの問題も残されているが、標準化を進める指標の一つになると考えられる。
さらに、看護の積極的な介入による遷延性意識障害の改善に関するシンポジウム発表もあり、看護の重要性が再認識された。
医療側、患者・家族側、行政側そしてマスコミからの発表が行われ、多角的な検討がなされ、解決すべき多くの問題を有することが明らかとなった。今回のセッションのみでは結論には至らず、今後継続して検討するテーマになると考えられた。
意識障害医療の現状に関する県単位実態調査に関する基調講演(広南病院・藤原悟院長)およびシンポジウム発表がなされた。予想を上回る遷延性意識障害患者の存在が明らかとなり、今後、高齢社会化に伴い、さらに患者数が増加可能性を示された。今後、全国規模での調査の必要性があると考えられた。
また、音楽運動療法に関する多岐にわたる試み、意識障害救急医療の新展開、その他、興味深い多数の報告がなされた。
以上、全てに触れたわけではありませんが概略を説明しました。
主題は大風呂敷的なものではありましたが、多くの貴重な発表のおかげで一定の成果を上げることができたと考えております。今回の成果が意識障害医療の発展の一助になると確信し学会報告とさせて頂きます。