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  • 遷延性意識障害患者のジストニアについて
  • 遷延性意識障害患者のジストニアについて

    ■Question

    くも膜下出血で遷延性意識障害となり3年9ヶ月経過した母のことで質問します。H23.9から緊張が出はじめましたが、それがH25年夏ごろから悪化。冬頃にはジストニアと思われる症状が目立ち始めました。現在療養病院にいますが、理学療法士さんからもジストニアでは?と言われています。痙性斜頸、手足のねじれ、急激な緊張、持続時間の長さなど。体調的に専門医への受診が難しいです。やはり受診して診断を受けた方が良いのでしょうか?DBSなどうけたいですが、体力的に心配です。また、ジストニアの場合リハビリはどうしたらよいでしょうか。病院スタッフにはその知識がありません。お願いします。

    ■Answer

    前回ご質問いただいた時に、お母様は「呼びかけに開眼することもなく、追視もほとんどありません」とのことでしたので、現在も同様の意識状態にあると理解してお答えします。くも膜下出血で発症されて、その後急性硬膜下血腫や、血管れん縮による脳梗塞なとの合併症があり、現在意思疎通が出来ない状態ならやはり脳の機能低下はかなりあると思われます。お送りいただいた写真では、左上肢は伸展されかつ外旋位で手首は屈曲していますから、これは典型的な除脳硬直の時に見られる肢位です。手の写真ではすべての手指が屈曲して親指が他の4本の指の内側に入っています。これは新生児が拳を握っているときと同じ指の形です。生まれたばかりの新生児は大脳はありますが、まだ機能していないので、このような手の形をとります。大脳の神経繊維が完成して大脳皮質が機能してくる生後6ヶ月頃より、5本の指を使って物をいじったり、つまんだり出来るようになり、じゃんけんのグ-の様に、親指が他の4本の指の外に出る拳の握りかたになります。このことから、お母様の大脳皮質機能の低下はかなり重篤であることが想像されます。口周囲の写真では左の鼻唇溝が浅く、左口角が下がっているので、顔面左半分の麻痺があるように見えます。首の写真では顔が左を向いて、右の胸鎖乳突筋の緊張が見られます。全身の写真や動画がないので確実なことは言えませんが、少なくとも左半身の麻痺と除脳硬直はあると思われます。

    昨年夏頃から筋緊張が亢進、冬ころにはジストニアと思われる症状が目立ちはじめたとのことで、ジストニアではないかとご心配のこととお察しします。ジストニアという名前の意味するものは、「ジス」は「不全」や「異常」などという意味で、「トニア」はト-ヌス(緊張、この場合は筋緊張)という言葉からでた「緊張症」という意味です。従って、広い意味ではすべての筋緊張の異常はジストニアと呼べる訳ですが、普通、神経内科などでジストニアという時は、随意運動の出来る人に起こる、自分ではコントロ-ル出来ない筋緊張の亢進による不随意運動のため、奇異な姿勢をとる症状を言います。この奇異な姿勢が頸部に起こると痙性斜頸、体幹に起こると躯幹ジストニアとなるわけです。典型的な症状は、【動画: http://www.youtube.com/watch?v=87LDJqjSduo】、【動画: http://www.youtube.com/watch?v=6Vi3gSRIPkY】などで見ることが出来ます。現在のお母様の症状は基本的には除脳硬直であると思います。除脳硬直姿勢は両上肢が肩で内旋して肘関節は伸展、手関節は手掌側に強く屈曲した状態で、下肢は伸展して足関節は足底の方向に強く伸びてつま先立ちのような姿勢です。お母様の場合はおそらくこれに片麻痺の症状が加わって複雑な姿勢となっていると想像します。DBSの適応については、残念ながらお母様の場合、効果はないと思います。仮に効果が期待出来るとしても、体内に電極や刺激装置などの大きな異物を植え込む手術は感染の危険もあり体力が低下している場合はその危険性はさらに大きくなります。【動画: http://www.youtube.com/watch?v=UJ-uAvbeUJE】に参考になると思われる動画があります。脳卒中などで重症の後遺症のある遷延性意識障害の患者さんは除脳硬直姿勢である場合が時に見られます。このような姿勢は眠っている時には筋緊張が比較的低くなるので、目立たない場合もありますが、覚醒すると筋緊張亢進のために除脳硬直姿勢が目立つこととなります。しかし、ある程度長い期間この姿勢であると、この肢位で関節の強直が起こり筋緊張が低下してもこの姿勢のままになります。

    お母様の場合最近になって筋緊張が高くなってきて、体に触れると緊張が亢進するとのことですが、いくつかの可能性が考えられます。第一に、筋緊張が変化した理由として、脳梗塞などの新たな血管障害が加わった可能性があります。健常者に脳血管障害が起こると、その症状が明らかに判るために気がつかれますが、障害の強い人に新たに脳血管障害が加わると、それまでの症状にカバ-されてそれがわかりにくい場合があります。また、時として、新たに加わった障害により今までの症状が変化して、「緊張がとれた」などの良い変化としてとらえられる場合すらあります。しかし、このような状態が実際に起こっていたとしても、それに対する根本的な治療は非常に困難な場合がほとんどです。第二の可能性として、覚醒時に筋緊張を高める様な要因はないでしょうか。例えば、褥瘡による痛みが常にあったり、不自然な姿勢で臥位をとったり、長時間同じ姿勢で寝ていて、痛みを感じていることなどはないでしょうか?安楽な姿勢をとらせるためには頻繁な体位交換や手足を枕やクッションでうまく支えることなどが必要です。しかし、このような注意をしても、除脳硬直のような異常な筋緊張を緩和することは困難な場合が多くあります。回答者の病院に入院している患者さんの中にも、年単位で除脳硬直や除皮質硬直による筋緊張の異常が時間と共に強くなっていく場合があり、その治療には苦労しています。場合によっては、中枢性の筋弛緩薬を処方することもありますが、中枢性筋弛緩薬のほとんどは眠気をともないますので、覚醒レベルは下がることになり、誤嚥性肺炎などの可能性が高くなるので、その使用には得失を十分に理解した上で使用する必要があります。このような患者さんのリハビリでは関節可動域を保って、更衣などのケアの際痛みを感じたり着衣の脱ぎ着が困難にならないようにすることが目標になりますが、実際の場面では関節の他動的運動などのリハビリで関節の可動域を維持したり改善させるのは困難な場合も多いのは事実です。

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