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  • 遷延性意識障害での気管切開、肺炎の予防について
  • 遷延性意識障害での気管切開、肺炎の予防について

    ■Question

    60歳の弟について質問します。6年前脳出血で倒れ以後遷延性意識障害の状態で気管切開をしています。肺炎を繰り返し、発症3年後からは酸素を使用していますが、酸素飽和度は95%程度です。幸い最近2年間は肺炎を起こしていませんが、肺を強化して肺炎になりにくくする方法はないでしょうか?

    ■Answer

    このような患者さんの肺炎の予防は非常に重要です。最近2年間は肺炎を起こしていないとのことで、良好なケアが行われていると推測します。

    肺炎の予防には排痰を十分にすることと、口腔内の清潔を保つことが重要です。気管切開から吸引が可能なのは肺の奥から気管まで出てきた痰ですから、重要なのは肺の奥の方に貯留した痰を吸引が可能な気管まで移動させることです。

    まず、痰自体の粘度が低く流動性があることが必要で、このためには脱水状態は避けなければなりません。一日1500ml程度の尿量があることが好ましいと思います。痰の粘張度を低下させる薬が処方される場合もあります。

    また、乾燥は痰が固くなる原因なので吸気の加湿は重要です。深呼吸をしたり、しゃべったり笑ったりすることの少ない意思疎通が不可能な患者さんは同じ深さの呼吸を繰り返すので、気管から一番遠い下肺野では肺胞の空気がなくしぼんでしまう無気肺を起こしている場合もしばしば見られます。肺胞がこのような状態になると、一度しぼんでしまった風船に息を吹き込む時に最初は力がいるように、非常に膨らみにくい状態になります。このような場合は必要に応じ、手動の呼吸バッグや人工呼吸器で加圧して肺胞を膨らませたりする場合もあります。

    次に重要なのは体位により喀痰を吸引が可能な気管まで誘導することです。既に腹臥位をやっているとのことで、これは非常に有効と思います。腹臥位までいかなくても比較的体位交換が楽な側臥位でも十分に効果がありますので側臥位を左右繰り返すのも良いと思います。仰臥位の時にベッドの頭の方を足より低くすることも効果的かもしれません。車椅子に乗るなど座位をとることは、横隔膜が下がり、肺の下の部分が拡大するので腹臥位と同じように効果がありますが、座位の姿勢に気をつけて、正しい座位をとり腹部を圧迫しないようにしてください。

    口腔内の清潔については毎日の歯磨きや口腔内の清拭が重要です。また虫歯があると口腔内の清潔が保ちにくいので、可能なら治療をすることが好ましいと考えます。歯磨きの際にうがいをすることができない場合は吸引管がついた歯ブラシは役に立つと思います。

    現在は少量の酸素の使用で酸素飽和度が95%程度とのことですから、この状態で酸素不足の心配はないと思います。酸素飽和度が90%以上ならまず心配はありませんが余裕をみて95%くらいが維持できるようなら安心です。

    いずれにせよ、このような状態で肺の機能をさらに改善・強化することは困難ですから、目標は肺炎などを起こさず、現在の肺の機能を維持することが重要となります。万一発熱など肺炎が疑われる症状が出たときは、早期の診断と治療で悪化させないことが何より重要となります。

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