太田富雄先生、有難うございました
神野哲夫
太田富雄先生の御逝去を静かな気持ちで知りました。先生が闘病中であられたのは、少し前より存じておりました。
太田先生にはいろいろと御教授を頂きました。心より感謝しております。
先生に最初に御教授頂いたのは、小生が名古屋の新設医大の教授に就任した頃でした。意識障害の研究会の片隅に置いて頂きました。今は、その内容よりも、箱根の大きなホテルで検討会をされ、美味な物を食べさせて頂いた事の方をよく覚えています。
やがて小生も新設医大で、手術、救急で目一杯の人生を送る約30年があり、この間は太田先生と親しく接することは少ない方でした。
そして、停年となり再び太田先生にお会いする機会が増え、本当にいろいろなことを教えて頂きました。よく、食事や飲み会に御一緒しましたが、そこで出る会話は「哲学」と「宗教」でした。
「哲学はあらゆる学問の頂点に立つ」この教えは、その後の小生の人生に於いて、心深く留まりました。患者さんを診るのも、手術をするのも、世の中をリードするのも、人生の全ては、哲学が支配することを深く御教授頂きました。
またもう一つの宗教に関しては、主として、小乗仏教の立ち位置について、よく話をいたしました。しかし、宗教の種類に関してではなく、宗教心を土台にした患者さんの診察全体について、よく話し合いをいたしました。
ところで、小生、喜寿を超えた今、「人の評価」についてよく考えます。
若い頃は、自分の評価は自分で行いました。しかし、60代半ば頃になると、ようやく「自分の評価は他人が行う」ことに気がつき始めました。それに従い、自己宣伝も活発になりました(今思えば、恥ずかしい限りですが)。
やがて、人生70代も半ば過ぎます。もう一つ気がつきました。それは「評価は歴史がする」と言う事です。小生、心の中で日本人の中で歴史が評価する人を挙げなさいと言われれば、第一に西郷南洲、次いで福澤諭吉先生、三人目は最近の美空ひばりさんです。
太田富雄先生は、この「歴史が評価する人」だと思います。
意識障害に関する多大な御貢献と、何と言っても、これだけ多くの神経外科、神経内科の医師を育てた、あの教科書を作られたと言う事は、本当に凄い事で、正に日本一の脳外科医であられたし、「歴史が評価する人」であると思います。今後、この評価は益々高くなっていくと思っております。
小生も、もう、そう遠くない未来にあの世で太田先生と再会出来ると思います。多くの方々が先生に大いに感謝されていることをお伝えさせて下さい。